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研修情報

第二回反復違法行為対応研修会 > 研修会プログラム > 第7講義

反復違法行為に対応する裁判のロールプレイ

                            下総精神医療センター
                           薬物依存治療部長 平井愼二

 

 この研修への参加者は検察官、弁護士、裁判官、保護観察官、医師などの役になり、参加者が演じる反復傾向のある違法行為を行う者に、次に示す仮想状況と模擬裁判の設定に従って、裁判を展開する。

仮想状況と模擬裁判の設定

1.反復する同一違法行為に関する社会の仮想状況
1)ヒトの行動の中枢は第一信号系と第二信号系の2つであり、第一信号系の過作動で生じる
  逸脱行為は治療可能であることが一般的な知識となっている。
2)条件反射制御法や生活訓練を提供する施設が十分にあり、それらの施設の連絡先が種々の
 媒体で紹介され、治療や訓練を受けやすい。
3)取締処分側と援助側の専門職は、自領域の機能を発揮しながら、多領域の機能に期待し
 利用する方法を習得している。

2.仮想の法の基本
 違法行為治療法と違法行為処罰法が制定され、公布され、施行されている。
1)違法行為治療法は、違法行為を第一信号系の過作動が成立させる疾病に罹患した者について、
 次を規定している。
①本人はその疾病に対する治療や訓練を受けるなど、具体的な方策をとる義務を負う。
 この義務の違反には刑罰が与えられる。
②対応する者は職務の特徴に従い、対象者が必要な治療、訓練を円滑に受けられる可能性を
 高める義務を負う。この義務の違反には行政処分が与えられる。
2)違法行為処罰法は、次に示す神経活動には刑罰と教育で対応することを規定している。
①検挙された違法行為をその時点で促進した第二信号系
②検挙された違法行為の進行に可能な抵抗を怠った第二信号系

3.各領域の態勢
1)治療体系(医療・福祉・教育機関等)の職員は上の2つの法に従い、反復傾向のある
 その違法行為に対して、次のように対応することを基本方針とする通達が政府から出された。
①反復傾向のある違法行為を犯した者への対応において、既遂の違法行為は自発的に通報せず、
 第一信号系を焦点とする治療を含む働きかけを優先する。
②第二信号系に対しては取締側職員が参加する処遇を展開するよう努める。
2)司法体系の職員は上の2つの法に従い、反復傾向のあるその違法行為に対して、
 次のように対応することが規定されている。
①検挙した違法行為の成立機序を評価し、それをはたらいた者による同一違法行為の再発を
 抑制するために、原因となった第一信号系の神経活動に対応する治療と訓練、並びに第二
 信号系に対応する刑罰と教育を言い渡す。
②処遇においては、治療と訓練、刑罰、教育の提供を強制し、実施を観察し、違反者には
 刑罰を与える。

4.仮想裁判の進め方
2つの中枢に1つの裁判体が対応する。
1)検察官は、送致された事件の成立に関して、精神医学の専門家に被告人の情報を与え、
 面接させるなどして、その意見を受けて、各信号系の関与を把握し、第二信号系には起訴を、
 並びに第一信号系には治療や訓練の内容や期間を検討するべきである旨の申し立てをする
 (逮捕から判決確定までの図◎)。
2)検察官が上記の申立をしないとき、弁護人は専門家に被告人の情報を与え、面接させる
 などして、その意見を受けて、事件の成立に関して疾病に基づくと考える部分に対して、
 違法行為治療法に基づき治療や訓練の内容や期間を検討するべきである旨の申し立てが
 できる(逮捕から判決確定までの図◎)。
3)検察官あるいは弁護士の申し立てを受けて、多職種の合議は複数回、開催される。
 参加者は判事、検事、弁護人、保護観察官、判定医、弁護人が招聘した治療に関わる者などとする。
4)違法行為成立にかかわった第二信号系には刑罰と教育を与える。
 前出の2.仮想の法の基本の1)の①および2)の①と②が対象になる。
5)違法行為成立を第一信号系が促進しないように治療と訓練を強制する。
 次の機序で第一信号系が違法行為成立にかかわる。
①違法行為を促進する反射連鎖が強ければ、再発しやすい。
②社会生活を自立して規則的に過ごす能力や問題を解決する能力が乏しければ、軽微
 なストレスに反応し、第一信号系は生きる方向に作動し、過去に反復して作動した
 反射連鎖が作動しやすい。

5.裁判で言い渡された処遇の進め方
 社会内での治療や訓練、観察が言い渡された者は、保護観察の対象とする。
 矯正施設内でも適切な治療や訓練を提供する。

模擬裁判 事例

A氏(男性37歳)
 言いたくないことは言わない自由があると聞きました。それが嘘を言うことが許されるという意味ではないことも理解しました。
 私は医療機器の営業をする父と主婦をする母の間に生まれました。兄弟は、弟が一人います。家族は仲が良く、恵まれた子ども時代、学生生活を過ごしました。高校卒業後、バス会社に入社し、事務部門で勤務しました。いろいろなことを勉強しながら、楽しく仕事をしてきました。24歳のときから交際していた4歳下の女性と、29歳のときに結婚しました。31歳のときに長男が生まれ、3年後に次男が生まれました。
 一昨年の9月頃テレビで盗撮に関する番組を見ました。私は、興味をもち、しばらくして、穴の開いた紙袋に携帯電話を入れて、スカートの中を撮影してみました。とても良く映っているので感動しました。悪いことだと知っていましたが、うれしくなり、妻にばれないように、その映像を見ながら自慰をしました。
 また、盗撮をしてみたくなりました。捕まったら大変なことは知っていたのですが、相手に直接触るわけでもなく、自分だけで見るなら迷惑をかけないので、良いじゃないかとも思いました。迷いましたが、1回目の映像のことが忘れられず、絶対にばれないようにすればよいと思い、1回目の盗撮から1か月ほど後に、2回目の盗撮をしました。相手に気づかれずに盗撮する行為に興奮しました。その後、週に4~5回は盗撮をするようになりました。
 昨年の3月頃、近くのデパートで盗撮をしていたとき、周囲の人に見つかり、捕まりました。警察に行こうなどと言われましたが、おとなしくしていると、隙ができたので、私をつかんでいる手を振り切り、逃げ切れました。とても怖かったので、その後、半年近くは盗撮をしませんでした。少しは欲求がありましたが、自分が盗撮を始めるとそれに夢中になり、周囲には違和感を与える行動をしていると思い、絶対に見つからない方法などないと考えました。
 ところが、昨年の8月頃、ネットで盗撮用の細いカメラを見つけました。違和感を与えるのは行動で、器具が問題ではないと、今から考えるとわかるのですが、そのときは見つからないように盗撮できそうだと思いました。そのカメラを購入して盗撮を再開しました。それからはほとんど毎日、盗撮をしました。仕事のある日は、出勤時と帰宅時にしました。週末は家族と出かける日以外は、必ず、しました。一人で休みの日に外出すれば、朝から出かけて、盗撮して、離れた場所に行って映像を見て、再び盗撮することを1日10時間ほどすることが普通になりました。
 昨年の11月、少し心配になり、ネットで調べると盗撮は薬物乱用と同じ種類の病気で、やめようと思っても自分の思考ではやめられない状態に至ると書いてありました。私は、まだ、やめようと思えばやめられると思っていたので、今度の週末は盗撮をやらないでおこうと決めました。しかし、その週末の朝、起きると盗撮がしたくなり、やめようと思っているのに、どうしても思うようにならず、細いカメラをもって出かけ、いつものように朝から夕まで盗撮をしました。私は完全に自分が盗撮をやめられない病気になっていると思いました。
 ネットで相談先を見つけ、精神保健福祉センターに電話したら、条件反射制御法というもので治ると言われました。教えられた病院に電話すると、入院治療で条件反射制御法を受けると完治すると言われましたが、考えてからまた電話すると言い、電話を終えました。別の病院に電話すると、外来でも条件反射制御法が受けられると言われ、良かったと思いました。
 しかし、受診せず、ほとんど毎日、盗撮を続けていました。やめられないのは知っていました。捕まるかも知れないと思いながら、治療に踏み切れていませんでした。治療を受けることを妻に何と説明しようか、職場には何と言おうかと考えていたのです。そんな状態が半年ほど続いていました。今回、捕まったことで仕事をやめなければいけないと思い、不安です。それは良くなかったけれど、これでやっと治療を受ける覚悟ができました。

                   平成29年 5月12日
  署名○○○○   捺印

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