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研修情報

第二回反復違法行為対応研修会 > 研修会プログラム > 第6講義

反復違法行為者の責任能力と対応する裁判

                            下総精神医療センター
                           薬物依存治療部長 平井愼二

 ヒトは、幻覚、妄想、思考障害等の精神病性障害、意識の異常、精神発達遅滞等がない状態あるいは軽微な状態(これをここでは通常精神状態と呼ぶ)においても、第一信号系(反射連鎖の作動が定型的行動を司る中枢神経系)と第二信号系(思考が動作を司り行動を牽引する中枢神経系)が影響しあった結果の神経活動により行動する。特定の行動が生じるか否かにおいて2つの信号系が摩擦するときは優勢な側が劣勢な側を制圧し、従えて動作を司る。
 通常精神状態において2つの信号系が活発に働き、多くの場合は軽微な逸脱が生じても社会規範に従う方向に第二信号系が作用して行動が調整される。一方、反復傾向のある違法行為が発現するメカニズムは次のようである。
 第一信号系には、特定行動により生理的報酬を獲得することを反復した後は、その行動を促進する反射連鎖が成立する。促進される行動が違法であり、その行動の進行に第二信号系が抵抗しても、第一信号系に成立した反射連鎖の作動性が強ければ、第二信号系の抑制に勝り、その行動を生じさせる。
 第二信号系は、違法な特定行動に関して第一信号系の促進がなく、あるいは弱く、また、その行動が違法であると知っていても、その行動を計画し、実行することがある。また、違法な特定行動に関して第一信号系の反射連鎖がその行動を促進するが、第二信号系がその行動を違法と知り、その反射連鎖を抑制する能力をもっていても、その抑制を怠り、その違法行為の進行を放置することがある。
そのように現実の違法行為は2つの信号系が種々の割合で影響して生じる。
 従って、違法行為の初めての発現および再現を効果的に防ぐ制度は、第一信号系と第二信号系の両方に働きかける準備をもち、違法行為に対する各信号系の関与の割合を評価して、それに従って、並びに、各職種の職責に従って、治療と訓練、刑罰と教育を、適切な強制力をもって提供するべきである。
 第一信号系は反射により行動を促進する中枢であるので、その作用に対応するには治療と訓練を提供する法が必要である。それを違法行為治療法としよう。
 第二信号系は思考により行動を制御する中枢であるので、その作用に対応するには刑罰と教育を提供する法が必要である。それを違法行為処罰法としよう。
 違法行為治療法と違法行為処罰法は社会においては等しい重要性をもつが、各専門職は職責に応じてそれぞれの法を現実の対象者に適応しなければならない。
 違法行為治療法は、違法行為を反復する者に必要な治療と訓練を受けるよう求め、援助側専門職にはその実現を円滑にすることを求め、取締処分側専門職にはその実現を強制することを求めるものである。
 違法行為処罰法は、援助側専門職には役割に応じて法の抑止力を処遇に設定するよう努めることを求め、取締処分側には違法行為を捜査し、評価し、適切な刑罰と教育を強制することを求めるものである。
 この二つの法が成立し、付随する態勢が実現すれば、違法行為の初発に対する予防効果は保たれ、また、違法行為反復者は、援助側と取締処分側の連携で構成される体系にいずれの領域から関わっても必要な要素が揃った処遇を受けられることから、再発に対する予防効果が高まる。

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