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研修情報

第二回反復違法行為対応研修会 > 研修会プログラム > 第5講義

援助側の処遇に法の抑止力を設定する方法

                            下総精神医療センター
                           薬物依存治療部長 平井愼二

 規制薬物乱用者を対象にしてこの処遇を解説する。

1.この処遇の目的
 ∞連携が規定する援助側職員の態勢は、対象者による規制薬物乱用を自発的に取締機関に通報しないが、対象者側の同意が得られれば、可能な限り早期に取締職員と面接などで接触させようとするものである。
 この態勢により∞連携体系は、援助側機関を規制薬物乱用者が関わりやすく保ち、援助にかかわった者に対しても法による抑止力が提供され、薬物乱用を回避する方向に作用する。また、取締職員と面接などで接触させようと働きかけることは、一部の援助側職員に生じる通報義務違反の違法性を阻却する。さらに自助組織や私立相談所の職員等の通報義務を負わない者に関しても、仮に援助的かかわりのみに徹するならば反社会的であろうが、冒頭の態勢を施設の特性に応じてもてば正当に社会を支える。

2.具体的な方法
 ∞連携が規定する援助側職員の態勢は次の薬物検出検査および取締職員が参加した処遇で法による抑止力を対象者に強く感じさせるものである。この処遇は援助側職員が対象者に十分に説明し、対象者の同意により成立するものであるが、ときに強力な指導と家族等の協力を必要とする。
1)薬物検出検査
 薬物乱用対策のための連携における援助側職員による薬物検出検査の最大の目的は、検査の前の一定期間内に薬物乱用をすれば検査によって規制薬物自己使用という違法行為をしたことが明らかになるために、それを回避しようとする思考をより強く対象者にもたせることである。また、検査を受けるか否かの自由は対象者にあるであろう。
 従って、対象者が薬物検出検査を拒否しても、あるいは陽性の場合に自首しなくても、援助側職員は対応を拒否してはならず、また、取締機関に自発的に連絡してはならない。ただし、対象者が捜査の対象となり、取締機関から援助側機関に照会があった場合は回答するべきである。仮に、回答を怠れば、援助者と被援助者の共通の目的が薬物乱用を抑制することでなくなり、回答を怠る援助側職員の態勢は反社会的なものとなる。
 ∞連携体系の援助側の態勢は薬物検出検査で陽性となっても自発的に通報しないので、対象者のほとんどは薬物検出検査を円滑に受け入れる。受け入れようとしない者に対しては家族や恋人、あるいは生活保護を受けていれば福祉事務所職員の協力を得て薬物検出検査を勧めることにより、対象者が受け入れることが多い。
 薬物検出検査を受け始めた者の多くは規制薬物を再び乱用せず、安定して経過する。
2)取締職員が参加した処遇
①取締職員との面接の開始
 薬物検出検査を受ける者の一部は、薬物摂取行動が重篤に条件付けられた者、精神的ストレスを受けやすく薬物摂取行動が発現しやすい者、薬物使用の誘惑を受けやすい環境にいる者などであり、再乱用の可能性が高く、それらの者に対しては取締職員との面接を勧奨する。
 取締職員に会うことを勧められた患者は、直ちに逮捕されるのではないかと恐れることが多い。それに対しては、覚醒剤ならば体内に残留する期間が摂取後の約2週間程度であること、並びに、その2週間を経た後の早い時期に取締官に面会できること、つまり検挙される証拠がなくなった時点で取締職員に面会する計画を伝えると、患者は取締官との面接を受け入れることが多い。
 取締職員は患者と面接し、事情を聴取し、患者の同意を得て顔写真を取り、後に面接を反復し、電話をかけ、当院に対して照会を行う。この段階で多くの患者は検挙を回避するために、薬物乱用から離れる。取締職員は状況に応じて自宅訪問や捜査を実施し、検挙が可能となった場合には検挙する。
 この処遇を、2000年から関東麻薬取締部と当院の間で開始し、現在は月に一度、当院に取締官が訪れ、患者と面接している。また、2012年からは警視庁と当院の間で同様の処遇を開始し、後に見解に差異が生じ、2016年10月一旦、終了した。
②取締職員と面接した後の規制薬物使用への対応
 取締職員と面接した後にも一部の者は規制薬物を乱用する。その場合にでも援助側専門職は態勢を変化させず、それまでと同様に自発的には通報せず、対象者側の同意が得られれば検挙される証拠がなくなった早い時点で担当医から取締職員に連絡する態勢をとる。対象者の多くは、再度の規制薬物使用の後でも、取締職員と面接することを受け入れる。一方、連絡を受けた取締職員はすでに面接した後に対象者がさらに規制薬物乱用を反復したことを知ったことから、より厳正な態勢をもって指導に当たることになる。この態勢の変化を対象者は意識し、処遇環境は法による抑止力がより強まったものになる。対象者は検挙につながる薬物乱用を回避するために入院や回復支援施設入寮等のより手厚い処遇を受け入れる方向に向かうことが多い。
 対象者の一部は援助側職員が取締職員に早い内に連絡することを受け入れない。その場合でも、取締職員は定期的な照会を面接した者全員を対象にして数ヶ月に一度は下総精神医療センターに行うので、後のいずれかの時点で、対象者による再度の規制薬乱用を回答において知ることになる。つまり、規制薬物乱用をしたときには、担当医による連絡の提案を対象者が拒否したことが取締官に分かる。そのような態勢をもつ対象者を要注意人物として取締職員は把握し、より強い観察指導の対象となる。
 あるいは、一旦は早い時点での連絡を拒否した者に対しても、そのような予想を対象者に伝えることにより、早い時点での取締職員への連絡を受け入れる対象者は少なくない。

3.刑事司法体系の効果を増幅する∞連携の援助側の態勢
 ∞連携体系が政策として導入され、各機関の態勢が広く報じられれば援助側機関は関わりやすくなり、多くの規制薬物乱用者が援助側職員の働きかけの対象になる。援助側職員は薬物検出検査を実施し、また必要な者には取締職員に面接することを勧め、処遇に強力な法による抑止力を設定しようとする。つまり、∞連携の援助側の態勢はより多くの対象者に、より強力な法による抑止力を提供するものである。
 従って、∞連携においてはまずは各領域がもつ独自の機能を発揮することから、援助側職員と取締処分側職員は摩擦するかのように感じられるが、取締機関に通報しないことから始まる∞連携の援助側の態勢は、実は、刑事司法体系がその存在の目的とする犯罪の抑止効果を増幅するものである。

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