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研修情報

第二回反復違法行為対応研修会 > 研修会プログラム > 第3講義

現在の刑事裁判の問題点

                            橘 法律事務所
                            弁護士 橘 真理夫

1.現行の刑法の問題
 現在の刑法においては、①構成要件(刑法等に書いてある犯罪を行ったこと)、②違法性の阻却事由(正当防衛等)がないこと、③責任能力があること、を処罰するため必須要件としています。一つでも欠けていたら、処罰されない建前です。
 そして、「悪いことをした人に対して刑罰を科す」という法律を作ることによって、ア.一般人を犯罪から遠ざける機能(「脅し」)、イ.犯罪を犯した人が再犯を行わないようにする、という機能を持たせていると考えられています。
 もっとも、厳しい「脅し」があったとしても、確信犯の場合は、「脅し」による抑制が機能しませんし、覚せい剤やクレプトマニアのように、「脅し」があっても、疾病が原因で、我慢できなくて犯罪に及んでしまう人は沢山います。
 また、日本の刑事司法の根本的な考え方として、人は自由な思考に基づいて行為ができるという前提の下、「自分のしたことが悪いことだと理解した」「被害者の気持ちがわかった」場合には、「反省した」として、「再犯を犯さなくなる」という思考で、再犯防止機能を捉えています。
 大きな問題は、ここにあると考えます。
 つまり、現行の刑法では、「反省」ではどうにもならないような、「疾病の原因による犯罪」が存在することについての視点が抜けている、という問題があります。

2.逮捕から起訴へのプロセス
 前述の刑法の①構成要件、②違法性の阻却理由がないこと、③責任能力があること、の3つの要素が揃えば、犯罪は成立し、とりあえず、警察に捕まります。
 例えば、万引きをした人が、それが疾病の原因によるものかどうかは、全く関係ありません(重篤な精神異常の場合は、③の「責任能力」がないとされます)。
 警察官は、犯罪者がいれば、それを放置できませんし、捕まえた人を許す権限もありません。そして、捕まえ方の一つに「逮捕」があります。
 警察官が、犯罪に及んだと思われる人(「被疑者」といいます。)を捕まえた後は、取調べをして、検察官に事件を送ります(「検察官送致」「送検」といいます)。
 事件を送られた検察官は、自分でも取調べをしてみて、起訴する(刑事裁判にかける)か、それとも不起訴にする(許す)を決めます。
 検察官は、起訴をするかどうか決めるに当たり、誰が見ても精神病というような状態でなければ、「本人が自由な意思の下で、意図的に行われた行為」として、起訴の対象とします。ここで、被疑者の疾病が犯罪の原因かどうかは、関係ありません。
 東京では、起訴した検事は、公判を担当する検事(東京地検では、捜査と公判は、それぞれ別の部署の検事が担当します)に対して、「求刑意見」という申し送り事項を書きます。覚せい剤やクレプトマニアの窃盗などは、検挙の回数を重ねるごとに、長期間の矯正が必要であるとして、重い求刑意見を書くようです。
3.起訴後の事情
 起訴をされると、「被疑者」と言われていた人は、「被告人」という名に変わります。東京では、この頃に、警察の留置場から東京拘置所に送られます。
 裁判所では、検察官の起訴を受けて、審理の準備が始まります。
 現在の東京地裁では、早ければ起訴から2ヶ月くらいで最初の公判が開かれます。これが重大犯罪が対象の裁判員裁判になると、公判が1年以上後だったりします。
 起訴がなされると、被告人は、「保釈」される場合があります。ただ、保釈されるかどうかは、罪の重さと、弁護人の腕(情熱?)次第です。
 弁護人が、何もしない人だったりすると、被告人が、ずっと留置場や拘置所などの刑事施設で、何もしないで、毎日時間を潰すことになります。
 疾病が原因で犯罪に及んだ被告人の場合でも、刑事施設では、疾病の治療をしませんので、通常は、病状が悪化します。裁判員裁判の場合、その期間が長期になりますので、事は深刻になります。

4.裁判所での審理
 裁判所の審理は、刑事事件の場合、「犯行当時、何をしたか」に重点が置かれます。
 一般には、量刑を決める際、行為責任主義という原則を採用しており,「行為がどれほど悪質なのか」によって、その基本的な量刑の範囲が決まります。
 その際、被告人が「どういう意思で犯罪を行ったのか」という動機は斟酌されますが、「何が原因で被告人が犯罪を行ったのか」という原因については、ほとんど斟酌されません(主張したとしても、裁判官は「疾病」に興味すらないようです。)。
 ですから、前述の覚せい剤事犯やクレプトマニアの場合も、前科が増えるに従い、「まだ反省が足りない」として、初犯よりも、量刑の範囲が重くシフトさせます。
裁判所が、刑罰を決める際も、疾病の治療については、全く考慮されていません。ですから、弁護人も、判決の考慮要素でない「疾病の治療」の主張はしません。
 そもそも、刑法に規定がないのですから、判決においても、裁判所が、被告人に対して、勝手に、治療を指示することはできません。せいぜい、執行猶予の場合に「保護観察に付す」を加えるくらいです。

5.刑務所での処遇
 刑務所の在り方にも、国によって様々です。ここでは、日本の話をします。
 基本的に、刑務所は刑罰を与えるところです。勿論、「矯正」も重要な機能です。
 ただ、日本では「矯正」と「疾病治療」との区別は、明確ではないようです。
 刑務所でも、限られた予算の中で、苦労して矯正プログラムが行われています。でも、現実には、「治療」と呼ばれている内容ではありません。
 実際に、認知行動療法に基づく性犯罪者プログラムを受けた複数の人に関し、実際には、殆んど効果はなかったという結果を見てしまいました。
 クレプトマニアに対しては、殆んどの刑務所で、全くお手上げ状態のようです。
 このようにして、受刑者は、疾病の治療がないまま、刑期を終えて、社会に戻ります。満期出所の場合、保護観察所にも行かず、社会に直接戻ります。
 従って、現在は、刑務所に疾病を抱えた人が沢山入って、出所後に再犯をくり返す状況になっています。

<逮捕から先のプロセス>

<保護観察所でのプログラム>
1)基本的な考え方
 ① 再犯防止に特化した内容
 ② 二度と事件を起こさないためのコツを身に付ける
 ③ 「性格を変え、生まれ変わる」方法ではなく、自分で自分をコントロールする方法
   を試行錯誤しながら考える。

2)プログラムの概要
 ① 導入プログラム (刑事施設で受講していない者が対象の「動機付け」)
 ② コア・プログラム (性犯罪の場合、5つのセクションで構成されている
   認知行動療法に基づくプログラム)
 ③ 指導強化プログラム (保護観察官や保護司による直接的指導)
 ④ 家族プログラム (家族の同意を得て実施、家族の苦労に耳を傾ける)

3)その他
 ① 保護観察中、対象者は、上記プログラムとは別に、月2回程度、保護司と面談し、
   指導を受けることになっている。
   → 保護司が付くことによる再犯防止の効果は高いとの声が多い
 ② 保護司は、保護観察対象者が、一般遵守事項や特別遵守事項に違反していないかを、
   その都度確認し、違反があれば、すぐに保護観察官に通報される。
   → 保護司から実情を聞くと、かなり大変らしい
<刑務所での矯正教育>
 1)基本的な考え方??
  「矯正プログラムは効果がない」「痛い目に遭わせるしかない」

 2)実際の運用
   東京の場合、性犯罪者は、まず川越少年刑務所の分類 → その後各地へ

   某刑務所  予算の制約、累犯者への対応、プログラム応募への実態、方法論
   → 実際には、プログラム実施にも困難が伴う
   新潟刑務所 CRCT等を用いて高い実績を上げている

   受刑者の声

 <実例の紹介>
   ①覚醒剤(自己使用)

   ②窃盗 (クレプトマニア等)

   ③性犯罪(痴漢、強制わいせつ等)

   ④ストーカー

                                  以上


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